抱いた確信




野生のハーブにセージ、意外なことにローズマリーもみつけそれらを手にルルーシュが戻ってきたときには、湖の畔でライが焚き火を起こしていた。

「陛下っ」

そんなことをすれば煙と匂いで居場所を敵に知られてしまう。焦ったルルーシュの声に振り返ったライは「問題ない」と冷静に告げた。ルルーシュ以上に、ライはこういった場合の対応に詳しいはずだ。そのライが問題ないというのだから、本当に問題はないのだろう。
どんな手段を用いたのか、聞かずとも予想はつく。

(ギアス、か)

ルルーシュが森の中に分け入ったのとは違う場所の草が踏み荒らされていた。ライが踏んだとは思えない、もっと体重の掛かった踏み荒らされ方だ。範囲からして、人数も相当数いたはず。
ルルーシュがいない間に、ライは襲撃を受けた。だが、戦闘を行った形跡はなく、血のにおいもしていない。ということは、戦闘を行わずして敵を退けたということだ。話し合いでどうにかなるはずもない。ならば使われたのはギアスの力。
どんな内容の命令を放ったのか、ルルーシュに知る術はない。幾通りかの予測はあるが、あくまでも予測に過ぎなかった。
それに、ライがギアスを使ったことに、ルルーシュは僅かに驚いていた。ルルーシュが駆けつけたとき、ライは囲まれ体力をかなり消耗していた。ギアスを使えるならば、ライはあの場でルルーシュが駆けつける以前に行使していておかしくない。行使しない方が、おかしい。
だからルルーシュはライがギアスは使えないのだと判断した。陣でこそ、敵兵から定期連絡の方法を聞き出すためにギアスを使ったように思っていたが、実際は違う方法で吐かせたのかもしれないと、考えていた。
ギアスは絶対の力だが、完全無欠ではない。ギアスは使い、進化する過程で一時的に使用不可になることがある。ライにも、それが訪れているのかもしれないと敵に囲まれ息を荒くしている姿を見たときに思ったのだ。だとしたら、ライのギアスは相当進化していることになる。
ライがギアスを手に入れたのが、皇位継承前ならば、ゆうに二年の歳月が流れている。ルルーシュですら、一年足らずでギアスの暴走にいたった。ライのギアスの使用頻度は、恐らくルルーシュ以上だ。

(ライにこれ以上、ギアス使わせるわけにはいかない)

そしてルルーシュは。自分が離れていた間にライが襲撃を受けたことが何より悔しかった。守るといいながら、肝心のときに役立っていない。
ぎり、と奥歯をかみ締めて、それでも謝罪をすることはない。してしまえば、どうやって襲撃から切り抜けたのか聞かなくてはならない。ライは、きっとそれを望まないし、平然とした面持ちで、焚き火を見据えているライはルルーシュに視線を合わせようとはしない。問いかけるな、と雰囲気で語っていた。
浅く息を吐き出して、気持ちを切り替える。

「陛下、おっしゃられていたハーブ類を採ってまいりました。ローズマリーもありましたよ」

なにも目に入っていないかのように、何にも気づかなかったように、にこりと笑ったルルーシュにそれまでルルーシュと視線を合わせまいとするかのように顔を伏せられていたライの顔が勢いよく上がった。
整い過ぎた造形に僅かな幼さを残した表情は、驚愕に彩られていた。








2010/05/06