あたらしいかぞくができました




「ルルーシュ!今日から家族が増えるのよ!」
「は?」

久々に一日丸々休みで自室でゆったりくつろいでいたところをマリアンヌに用件も告げられぬまま突然呼び出されたルルーシュはマリアンヌの自室に入った途端笑顔で告げられた言葉に、文面どおり綺麗に石化した。

「理解が遅いのは感心しないわ。仕方のない子ね。もう一度言うからよく聞きなさい。今日から家族が」
「いえ、聞こえています。言葉の意味も理解できています。状況が理解できないだけです」
「あら?」

ことりと首をかしげたマリアンヌを前に、ルルーシュは天才と称されて久しい頭脳をフル活用して現状を理解しようと試みていた。
マリアンヌは確かに言った。笑顔で言ってのけた。「新しい家族が増える」と。
それは、どういう意味だ?

(身ごもった?母さんが?)

マリアンヌはかなり若い頃にルルーシュを生んだので、ルルーシュが十九歳になった現在もまだまだ元気はつらつだ。庶民の出から騎士まで成り上がった経歴は伊達ではなく、未だに若々しく子供のひとりや二人生んでもおかしくはないだろう。
……この母なら、八十でも九十でも生めそうだと思ってしまったのは、心の隅に隠しておこう。
ひっそりと決意を抱きつつ、ルルーシュはいったん脱線した思考を元に戻す。

(しかし母さんの言い方では“母さんが身ごもった”という雰囲気ではない。ならば、他の皇妃が身ごもった?)

それこそマリアンヌが嬉々としてルルーシュに報告する事柄ではない。
マリアンヌは基本的に冷静でさっぱりした性格をしているし、自身の立場を誰より理解しているので他の皇妃の様に他の皇妃が身ごもったからと見苦しい嫉妬を抱いたりはしないだろう。
父に嫉妬を抱く母、それはもはや母ではないとルルーシュは断言できる。他の皇妃がどうなのかは知らないが、母に関しては完全にかかあ天下だ。
シャルルはマリアンヌにべた惚れなのだ。尻に敷かれて恍惚と幸せを語れるくらいには、シャルルはマリアンヌを溺愛している。またも話がそれたが、上記の理由から“子供を身ごもった”説は却下。
だとしたら残る可能性は何だろう。ああ、もしかして、深刻な雰囲気で咲代子に呼び出されたこと事態がふりで、実は「犬(猫)を飼うことにしたの!」とかそんな落ちだろうか。いやいやいや、マリアンヌならつれてくるのはライオンかトラ、もしくは狼だろう。
人一倍たくましい母ならやりかねないことにルルーシュが目を遠くしていると、常にルルーシュの斜め上の行動をしてくれるマリアンヌは、やはり今回もルルーシュの度肝を抜く行動をとってくれた。

「ほら、貴方も自己紹介しなさい。今日から貴方のお父様よ!」

にこにこ笑顔のマリアンヌの言葉はまっすぐにルルーシュに向いていて、思わずルルーシュは後ろを振り返ってしまった。当然、マリアンヌの私室に他に人がいるはずもなく、メイドも執事もおらず、向けられた言葉はルルーシュにしか当てはまらない。
言葉の意味を理解したルルーシュが目を見開いて声を上げるより早く、それまでマリアンヌの足元に隠れていたらしい小さな人陰が、ルルーシュの視界にちょこんと入ってきた。

「……、ライ、です」

白銀の髪に、青紫の瞳。年の頃は5歳前後か。小さな顔の中にバランスよく配置された目鼻立ち。幼いながらに整いすぎた容姿をした幼子は、美形に見慣れたルルーシュですら純粋に綺麗だと思う存在だった。
子供特有の大きな瞳でルルーシュを見上げるライに小さく息を詰めていると、相変わらずにこにこにこにこ、満面過ぎる笑みを浮かべたマリアンヌがそれはもうきっぱりはっきり晴れ晴れと宣言してくれた。

「本名はライヴァルディア・ヴィ・ブリタニア。ルルーシュ、今日から貴方の息子になる子よ」

後にも先にも、目の前が真っ白になるほどの激しいめまいに襲われるままに倒れてしまいたいとこのときほど心の底から願ったことはなかった。




アンケート途中経過でまさかの二位。しかも一位と接戦で三位を大きく引き剥がしている結果に大真面目にびびりまくった結果、元の設定をゼロから組み替えてこんな感じのお話になりました。
これで「欲しかったのはこんなのじゃない!」っだったら真面目に涙目。
でも書いてる本人が楽しいからいいのです!



2010/01/28