十歳差は犯罪です




(ライとルルーシュは付き合ってます)
(色々あってライはカレンと友達になりました)
(カレンはルルーシュの高校時代の同級生設定)
(ライは基本的にスザクとルルーシュ以外の年上はさん付けです)
(ライ視点)



カレンさんにルルーシュと付き合っていることがばれた。
目の前にいるカレンさんは思いっきり頬を引きつらせている。ぴくぴくと頬が引きつるって、あまりないと思う。思わず感心してしまう僕を他所に、流石に長年の友人だというルルーシュはカレンさんの白い眼差しに居心地が悪そうだ。
微妙にカレンさんから視線を逸らして、目を合わせていない。うん、気持ちは分かる。カレンさんって、清楚そうに見えて意外と気性の激しい人だから、今の場合だと視線を合わせたとたん掴みかかられそうだ。襟首引っつかんで前後に学がくゆらしてきそう。そしてきっと、意識が遠のくまで(気絶するまで)はなしてくれないに違いない。そう確信を抱いてしまうほど、カレンさんから放たれる雰囲気はすさまじい。
当事者であるはずの僕が、どうしてこうも第三者視点でみていられるのかというと、カレンさんは僕にはちっとも関心を払っていないからだ。
僕とルルーシュの交際をしったカレンさんはその場で絶叫を上げて絶句した。茫然自失としてまったく動かないカレンさんに、放置するのは色々な意味で危なすぎると判断したルルーシュが、家まで連れてきたのだ。
そして、ようやく我に返ったカレンさんは般若の形相でルルーシュをにらみつけている。睨まれたルルーシュは、何故かフローリングの床の上で正座していた。つられて僕もルルーシュの横で正座している。もう結構な時間座っているので、そろそろ足がしびれてきた。けど、崩せない。なぜなら、僕とルルーシュの前には仁王立ちのカレンさんがいるからだ。……思わず正座をしたルルーシュの気持ちはわかるよ、うん。にらまれてない僕でも、思わず背中が丸くなる。

「ルルーシュ」

地を這うように低いカレンさんの声。普段聞きなれている優しい声音でも、ちょっと呆れたような温かい声でもない。絶対零度、まさしくその言葉が相応しい声音だ。
ぴくり、呼ばれたルルーシュが横で微かに反応したのを気配で感じて、僕も雰囲気に圧されていつの間にかカレンさんの足元をみていた視線をそろそろとカレンさんの顔に向ける。
予想に反して、カレンさんの表情はさほど険しくなかった。しかし、鬼のような表情でない代わりに、ただただ、その表情には侮蔑とさげすみの色がある。

「あんたがナナリーとロロを可愛がってるのは知ってたわ。ええ、知ってましたとも。とくにナナリーには異常ってくらい愛情を注いでいたことも」
「……」

ルルーシュの逸らした視線がもの言いたげだ。だけど、反論しないのはカレンさんの纏う雰囲気が圧倒的なことプラス、ルルーシュ自身も妹であるナナリーさんに向ける愛情の深さを自覚しているからだろう。
僕から見れば、ロロさんに向ける愛情だってナナリーさんのものとは遜色ないと思うけど。でもまぁ、確かに女の子、という一点でロロさん以上にナナリーさんには過保護だよなぁ。
そんなことをつらつら考える僕の前で、カレンさんの言葉は続いていく。

「だけど、だけどね。まさかあんたが十歳も離れた年下に手を出すようなろくでなしだとは思っていなかったわ……!!」

ぶるぶると、握り締められたカレンさんの拳が震えている。力を入れすぎた拳は白いのを通り越して、青白い。血管が浮き出て見える。反射的に危ない、と思った。
だけど、僕が口に出すよりもカレンさんの行動のほうが何倍も早かった。

「この、ロリコンがぁぁぁ!!!!」

がっ、と効果音の突きそうな勢いでルルーシュの襟元を掴み上げ、中途半端にルルーシュを持ち上げると(カレンさん力持ちだなぁ…!)(本気でこの現実から逃避したい)僕の予想通り、がっくんがっくんルルーシュを前後に揺らした。うわぁぁぁ、ルルーシュの顔がどんどん白くなっていく!

「か、カレンさんやめて……!ルルーシュが死ぬよ!」
「死ねばいいのよ、こんなクズ!いなくなった方が世界のためよ!こいつの存在が間違ってたのよ!今からでも遅くないわ、私が存在を抹消してあげる!!」
「カレンさん?!」

カレンさんは確かに外見に反して活動的で活発で、意外や意外、体育会系の人だけど、決して人をむやみやたらに傷つける人じゃない。そのカレンさんがここまで口汚くルルーシュをののしることに、僕はすでにもう、驚きもなにもかも通り越していた。これ、夢なんじゃないかなぁ……!と割と本気で考えるくらいには、目の前に広がる現実が信じられなかった。
いつの間にか、カレンさんの中でルルーシュは犯罪者で決定しているらしい。いや確かに世間一般から見て、二十六歳と十六歳は犯罪かもしれないが。しれないけど、お互い好きあってるんだからいいじゃないかと思う。
第一、ルルーシュは全然まったくこれっぽっちも僕に手を出していない。キスどころか、手すら繋いでいない。恋人同士になって変わったことなんて、精々向けられる微笑が以前以上に甘さを増したくらいだ。いまどきの高校生で、こんなに健全な恋愛してる人なんて早々いないと思う。

「少しまっててねライ。貴方の人生の汚点を消し去ってあげるわ!」

なんだかもう、僕自身がルルーシュを好きだってことを全否定しているようなカレンさんの台詞の数々にも反応できない。いや、カレンさんのこの台詞の全てが僕を純粋に心配してのものだと分かっているから、反応の仕様がないというか。
反発するのもおかしいし、かといって否定しても聞いてくれそうにないし、ルルーシュを庇えば逆にカレンさんに火がつきそうだし。……僕にどうしろと。
途方にくれる僕を尻目に、大きく振りかぶったカレンさんの拳を止めたのはそれまで黙ってカレンさんの誹りを受け止めていたルルーシュだった。

「カレン、違う。間違っているぞ!」
「なにがよっ!」

強い口調で否定を示したルルーシュと、即座に噛み付いたカレンさん。
一先ずカレンさんの拳がルルーシュの綺麗な顔にめり込む事態だけは避けられて(依然として拳は握られているので危険な状況だが)一先ず安心しつつも、はらはらしながら見守っていれば、ルルーシュはおもむろに言葉を続けた。

「俺は、年下だからライが好きなのではない!ライだから好きなんだ!!」

感動的な場面だ。恋する乙女なら感動するべき場面だ。夢見る少女なら、卒倒してもいい。
これでルルーシュがカレンさんの前にたって颯爽と言葉を放ったなら、僕だってくらりとめまいくらい起こしただろう。
だがしかし、現在のルルーシュの状況を忘れることなかれ。ルルーシュは、正座していたところをカレンさんに胸倉をつかまれ中途半端に立っている。中腰だ。はっきりいおう。全く格好良くない。
思わず遠い目をした僕を他所に、ルルーシュ本人は自身の言葉に満足しているようだった。我ながら見事だ、そんな内心の呟きが聞こえてきそうな雰囲気を感じる。そうだよね、ルルーシュだもんね。なにかにつけて、無駄に格好をつけたがる恋人の常の様子を思い起こし、はぁ、とため息を一つ。
普段なら格好どころか手の位置や顔の角度まで拘るルルーシュが、言葉だけで満足できているということは、それだけ今の状態で言葉を発することが困難だったということだろう。わかるけど、わかるけど……!折角なら最後まで拘りぬいてくれ。
僕の内心の訴えも露知らず、満足気なルルーシュにカレンさんの額にさらに血管が浮き出た。
やばい、と思ったときにはすでにとき遅し。

「それでも十歳差は犯罪よ―――っ!!!」

確かにそのとおりだ。
あまりの剣幕につい頷いてしまった僕の横を、ルルーシュが綺麗に吹っ飛んでいった。










ルルーシュに「年下だからライが好きなのではない!ライだから好きなんだ!!」 といわせたかったために書き出したら、なんだか変な方向にギャグになってしまった。
要反省。しかしこれはこれで楽しかった(笑)


201/01/13