意外な一面
放課後、どうにも一人で終わらせるには厳しい生徒会の仕事の手伝いをライに頼みたくてルルーシュはライを探していた。探す、とはいえライのいそうな場所は予測できている。スザクとともに軍に入っているライだが、今日は仕事はないといっていた。急な仕事が入っていなければ、クラブハウスか生徒会室か教室、そのいずれかの場所に大抵はいる。
けれど、その三箇所とも、ルルーシュが見て回ったときにライはいなかった。となれば、残る場所はひとつだ。
「やはりここにいたか」
「ルルーシュ」
きぃ、と扉を押し開ける。施錠されていない扉は簡単に開いて、開いた扉の先にはルルーシュの目当ての人物がいた。
屋上へと繋がる扉、手すりに腕を乗せて空を見上げていたライはルルーシュの声に反応して振り返った。微笑を浮かべたルルーシュに、刹那の間驚いたように目を見開いたがすぐさま柔らかい笑みを乗せた。青紫の瞳が優しく細められ、小さく首を傾げる。穏やかな風がライの髪をふわりと靡かせる。その姿がとても綺麗で、ルルーシュは思わず見惚れてしまった。
「どうしたの?」
「お前を探していた。少し、手伝って欲しいことがあって」
問いかけに答えれば、ライは体重を預けていた手すりから手を離した。駆け寄ってこようとするライを片手で制して止める。
「急ぎじゃない。それに、オレも息抜きがしたいしな」
「いいのかい?ミレイさんに怒られない?」
「問題ない。今頃スザクが死ぬ気でやっているさ」
暗に身代わりにスザクをおいてきたのだと告げれば、ライはくすりと笑みを零した。スザクが可愛そうだ、と小さく笑いながら告げて、再び手すりに体重をかける。
ライと過ごす時間が、ルルーシュは好きだった。ナナリーと一緒にいるのとはまた違った穏やかで緩やかな時間の流れ。無意識に安心でいる居心地のよさ。
これで、ライが軍人など出なければよかったのにと、一体幾度思ったことだろう。
今更考えても仕方のないことだ。脳裏を掠めた思考を振り払って、ルルーシュはつい先日のことを口にした。
「この間、お前が気になるといっていた雑誌を買ったんだが、読むか?」
「チェスのやつ?」
「ああ。オレも気になっていたし、もう読んだから読みたいなら貸すが」
「読みたい!ありがとう、あれどこを探してもなくて諦めてたんだ。ルルーシュはどこ―」
『オールハイルブリターニアァァァ!』
嬉々としたライの声を遮ったのは、堂々とした宣誓。ブリタニアを称え、忠誠を誓う言葉。しかも、かなりの大音量。さらには、一度で終わることなく何度も何度も繰り返し叫び続けている。
思いっきり固まったルルーシュの横で、同じく一瞬動きを止めたライはすぐさま我に返ると目にも見えない速さでポケットから何かを取り出し、思いっきり振りかぶって、投げた。
「?!」
突然割り込んできた叫び声もだが、そのライの動作に驚き目を見張る。思わずライが投げ捨てたものを視線で追いかけると、それはどうやら青い携帯電話のようだった。いまだに『オールハイルブリターニアァァァ』と叫び続ける、正直気持ち悪い携帯は、すぐに視界から消えてしまった。
「ラ、イ?」
「……」
「いまのは……その、なんだ?」
呆然としつつもなんとか問いかけるが、ライは無言のままだ。そうっと振り返れば、ライはとてもいい笑顔を浮かべていた。なんというか、笑顔過ぎて怖い笑みだ。
ひくり、と頬が引きつるのを自覚しつつ、これ以上どう対応すればいいのかわからないルルーシュが身動きがとれずに困っていると、ライは盛大にため息を一つ吐き出した。
右手を額に当てて、がっくりと肩を落とす。
「……今、軍でお世話になって……いや、お世話をしてる人が」
「世話をしてる?」
「うん。まぁ、色々あって、巻き込まれたというか、押し付けられたというか……ともかく、結構色々やってくれる人がいて……いい意味でも、悪い意味でも」
「はぁ」
「その人が『携帯電話の番号を教えてくれ!』っていうから、もってないって言ったら、携帯電話をくれたんだ」
「さっきのやつをか?」
「うん。正直、貰うべきじゃないと思ったんだけど、あんまり嬉しそうに渡してくるから、無碍に断れなくて……あって困ることもないと思って受け取ったんだけど」
「……」
「四六時中、ところかまわず電話してくるんだ……!最初は軍の緊急連絡かと思ってたんだけど、その内容が『今日の食堂のミートスパゲティは絶品だった』とか『租界の●●店の接客は評価するに値する』とか『バラエティー番組も中々面白い』だとかさぁ……!挙句の果てには『今日は髪が上手くまとまらない』だよ?!僕は貴方のブログじゃない!!って何度のど元まで出てきたことか…・・・っ!」
最初こそこらえた口調だったものの、最後には両手を振って熱弁するライは、僅かだが震えていて。今までどれほど耐え忍んできたのか如実に語っていた。
すでにイタ電の域にあるその内容に、ルルーシュも多大な哀れみを込めてライを見る。ここで「なら着信拒否にすればいいじゃないか」といえないのは、相手が学園の生徒などという人間ではなく、どんなにイタイ人間でもれっきとした軍人であると分かるからだ。
「その……苦労しているんだな……」
「緊急連絡以外はせめてメールにしてほしいと頼み込んだら、メールになったけど!変わりにあの着信音だ!!あれ、あの人の声なんだぞ?!自分の声録音して着信音に設定して渡してきたんだぞ?!!しかも、あの着信音変えられないんだっ。信じられるか!?ありえないだろう!」
「……マナーモード、とか」
「できたら苦労しない!」
「………電源落とす、とか」
「できるならとっくにやってる!」
「…………まぁ、がんばれ」
我慢も限界に来ていたのだろう。ぷっちん、と切れてしまった様子のライにルルーシュは哀れみや同情を通り越して、若干引きつつエールを送った。
ふるふると肩を震わせていたライはそこでぐっと拳を握り締めると、ルルーシュが始めてみる様で大きな声とともに拳を振り上げた。
「いい加減にしろあのオレンジー!!!」
ライの渾身の絶叫が、学園内にとどろいたのは言うまでもない。
軍人編純潔派ルートのライくんのジェレミア卿に対する内心の態度があんまりで爆笑したので、思わずできあがったネタ。
(またか)(いい加減にして欲しい)(………)内心そう思いつつ、表立ってはにこやかに対応するライくんに惚れ直しました(笑)
そして、軍人編だろうとルルライは譲れない。
2009/12/29