無意識ゆえの必殺攻撃
(黒の騎士団・ライはゼロ=ルルーシュと知らない)
(ライ←ゼロ)
黒の騎士団の本部トレーラーの中、一人机に向かってペンを片手にノートと格闘していたライは突然背後から響いてきた声に顔を上げた。
「なにをしている?」
「学校の勉強を少し」
振り返らなくても声の主はわかっていたのだが、仮にも自分の所属する組織のリーダーにむかって、手元に視線を落としたまま応対するのも無礼だろう。
握ったペンを置くことはせず、首だけめぐらせてそういえば、ゼロは僅かな間黙り込んで再び口を開いた。
「もう一時間もそうしているぞ。君がそんなにも時間がかかるとは、それほどまでに難しい課題なのか?」
「一時間?!」
素っ頓狂な声を上げたライは、慌てて壁にかけてある時計に視線を向ける。そこでは、確かにこの席に着いたときよりも短針が一つ針を進めていた。
そういえば、ノートを広げたときは他の黒の騎士団員もいたというのに、今ここにいるのはライとゼロだけだ。他のメンバーはいつの間にやらいなくなっている。それが如実に時間の経過を示していた。
「すまない!すぐに騎士団の仕事を」
慌てて広げっぱなしのノートや教科書、筆記具に手を伸ばし方付けを始めたライを止めたのは、意外なことにゼロだった。
「いい。今日、君が担当する分はすでに終わっているはずだ。それより、私の質問に答えていないが?」
確かに、本日提出の書類やライに割り振られた仕事は済んでいる。とはいえ、ライの立場は作戦補佐。黒の騎士団でもそれなりの地位にいるだけに、細々とした仕事は次々に舞い込んでくる。やらなければならないことは、いくらでもあるのだ。
眉を寄せたライに、ゼロはそれ以上の言葉はかけない。じっと佇む姿は、表情こそ分からないもののライの返答を待っているのに違いなく。リーダーがいいというのだから、いいのだろうと、軽く息を吐き出して、ライは最初の質問に答えた。
「ありがとう……課題はそれほど難しくない。僕が手間取っていたのはノートを纏める作業だ」
「ふむ。君は短時間で的確な報告書を作り上げていたと記憶しているが?」
暗に授業のノート纏めにそれほどの時間が必要なのかと聞いてくるゼロに、ライは微苦笑を浮かべた。
「僕のノートじゃない。人から見て、どうやったら簡潔かつ分かりやすくなるのか、試行錯誤しつつ、気を使っていたから時間がかかったんだ」
「カレンのものか?」
ライとカレンは交互に学園を休むようにしている。それは、二人同時に休んでいるために余計な詮索をされないためであり、お互いがお互いにノートを見せたり授業の進行状況を教えることで必要以上に授業に遅れないためである。
それを踏まえたゼロの問いかけにライは、いいや、と首を横に振った。
「僕のでも、カレンのでもないよ。……最近、友人がよく授業を休むんだ。彼に渡すために、ノートを纏めていた」
「……」
「まぁ、彼は僕よりよほど頭がいいから、必要ないのかもしれないけど。僕は彼にお世話になったから、少しでも恩返しがしたいんだ」
「……だが、君とて騎士団と学園の往復で疲れているだろう。友達思いなのもいいが、もっと自分をいたわった方がいい」
「ありがとう、ゼロ。でも、彼はとても大切な友人だから、僕に出来ることはしてあげたいんだよ」
そういって、ふわりと優しげに微笑んだライにゼロは僅かに息を飲み込んだ。そのままくるりと踵を返したゼロに、ライの訝しげな声が掛かるが「ほどほどにしておけ」とだけ言葉を搾り出して、返答は聞かずにゼロ専用の部屋に戻った。
「……ライ……」
一人きりの空間で、仮面を外したルルーシュは熱を持った顔を覆うように右手で目元を押さえた。ずるり、と扉に背を預けてそのまま座り込む。
「……反則だろう……!」
あんな笑みを向けられて、動揺しないでいられるはずがない。
期待しないで、いられるはずがない。
仮面を被っていてよかったと、これほどまでに思ったことはなかった。
2009/12/19