甘え方を知らない僕らに(気まぐれに10のお題)
放課後の生徒会室。黙々と書類の山を片付けていたライは突然肩を叩かれて、顔を上げた。
「休憩にしない?あんまり根詰めてると、倒れちゃうし」
「さんせーい!」
「リヴァルは全然やってないでしょー!」
にこりと笑ったのはミレイで、大きく手を上げて酸性を示したのはリヴァルだ。シャーリーが咎めるように言えば、へへ、と笑って頬をかく。実際リヴァルがこなした書類の量はライの十分の一にも満たない。
リヴァルが無能なのではなく、ただたんにライのスペックが高すぎるだけなのだが。
だが、長時間作業をしていたのは生徒会メンバー全員同じなので(授業に出ていない分、ライの方が断然作業時間は長いが)休憩自体に関しては特に反対もでなかった。それに、今日は珍しく全員が揃っているので、休憩がてら色々話したいという思いも強かったのだろう。
ライも了承して頷けば、満面の笑みでミレイがルルーシュにむかってびし!と指を指した。
「ルルーシュ!お茶の用意よ!ついでにお菓子もっ」
「はいはい」
指名されたルルーシュが肩をすくめて席から立ち上がる。ミレイの指名に特に他意はなく、生徒会のメンバーの中で紅茶を淹れるのはルルーシュが一番上手い、というだけの話だ。
生徒会室の中にある簡易のポットとティーセットの方へ行き、手際よく準備をするルルーシュをぼう、と見つめる。手伝わないのは、ライが紅茶を淹れるのに慣れていなくて手つきが危なっかしいからだ。見ていて怖い、とルルーシュや佐代子に止められたためだった。
それに、ライが行くより早くスザクが立ち上がって、戸棚からお茶請けのお菓子を出しているから他にすることもない。あまり大人数でしても、かえって効率が悪くなるだけだ。
連携がとれてるなぁ、さすが幼馴染、と感心しているとライの真横まで椅子を持ってきたミレイがにやり、と笑った。その笑みがあまりに不敵で、思わず半歩身を引く。
その勘は、正しかったとすぐに証明された。
「ライ!貴方ルルーシュと付き合ってるのよね?!」
「え?はい?」
「疑問で答えるな!」
ずばっ!と切り込んできたのはミレイで、迫力負けしてつい疑問視で返してしまったライに対する叱責は茶葉を蒸らしているルルーシュのものだ。ライが即答しなかったのが気に食わなかったらしい。いささかぶすりとした様子のルルーシュに「ごめん」と呟いて、今度ははっきりと肯定した。
「それが、どうかしたんですか?」
突然のミレイの言葉には驚いたが、ライとルルーシュの関係は生徒会では周知の事実なので、この場で言われて困るような台詞ではない。なのですぐに普段どおりに受け答えしたのだが、その余裕はすぐに崩れ去ることとなる。
「昨日、休日で学園お休みだったじゃない!なにをしたの?!」
やけに勢い込んで訊ねてくるミレイに、縮んだ距離だけ椅子を離れさせながら、答えようとしてルルーシュが口を挟んだ。
「会長、あまりプライベートに突っ込まないでください」
「この程度、プライベートの侵害にはならないわ!」
「十分侵害ですよ」
「侵害って言うのは、盗聴器とか色々仕掛けて四六時中監視することよっ。してほしいのルルーシュ?!話さないならするわよ!!」
話が大分飛躍したミレイに、流石のライもぱちぱちと瞬きを繰り返す。口を挟んでいいものかどうか迷うライと、どう反撃したものかつかの間考え込んだルルーシュ。二人よりも、こういうことにかけては一歩上を行くミレイの行動の方が早かった。
「スザク!」
「はいっ」
ミレイの号令とともに、スザクがどこからか取り出した白い布でルルーシュの口をふさぐ。猿轡をかませられて、さすがに驚いた様子のルルーシュが抵抗するが、そこは体力の差。すぐにスザクに羽交い絞めにされてしまった。
計画的犯行としか思えない連係プレーにライが驚愕で目を見開いていると、ふふん、と得意そうに笑ったミレイがまたもずずい!と迫ってきた。
「さぁ!ルルーシュを無事に帰して欲しかったら、ミレイさんの質問全てに素直に答えなさい!!」
どうすればいいんだ。
助けを求めてルルーシュを見るが、当の本人はとてもではないが動ける状態じゃない。ライの体力なら、スザクと渡り合えるので、無理に取り返すことも出来るだろうが、そこまでするほどの事態ではないだろう。
なにしろ、聞かれて困るようなことを昨日はしていない。少し迷ったものの、ライはさっさとミレイの質問に答えたほうがいいと結論付けた。
いつの間にか、ミレイ以外の全員の視線も自分に集まっていることを感じながら、口を開く。
「とくにこれといってなにも……普段どおり、でしたよ?」
「その普段どおりを教えて!」
「一緒にご飯を食べて」
「うん」
「チェスをして」
「うんうん」
「…………」
「え?!まさかそれだけ?!!」
昨日、ルルーシュと共にしたことをあげる。が、本当に二つしかなかった。なにしろ、昨日ルルーシュは一日の半分もクラブハウスにいなかったのだから。
何を期待していたのか、驚きを隠せないミレイに苦笑してライは言葉を付け足した。
「昨日、ルルーシュは朝食を食べてすぐに出掛けて夕食まで帰ってこなかったんです。だから、昼間は佐代子さんの手伝いをしたり、ナナリーと折り紙をしたり、自室で本を読んでました。帰ってきたルルーシュと、寝る前に一戦だけチェスをしたけど」
昨日ルルーシュと共に過ごした時間など、トータルでも三時間あるか怪しい。
それでもミレイは諦めずに質問を重ねた。
「もちろん、チェスの合間に愛の囁きとかあったのよね?!」
「全然」
「ちょっとは甘い雰囲気になったのよね?!」
「全く」
「……真剣勝負?」
「無言で本気の真剣勝負です。ちなみに僕が負けました」
普段から気真面目なライの言葉に嘘はないと判断したのか、ミレイはがっくりとうなだれた。
「なによそれ……!付き合いだしたばかりの若者二人が、一緒の敷地に住んでてそれだけ?!貴方たち、友達だった頃と変わったこととかないの?!」
「ない、と思います」
「えー!それってあんまりだよ!!」
首を傾げつつ、友達だったころも恋人になった後も生活に変化はなかったと色々思い出し、答えたライに不服そうに声を上げたのはシャーリーだった。
ロマンチストな彼女のことだから、ルルーシュとライの関係が不満なのだろう。かといって、なにをどうかえろというのだ。ライもルルーシュも、そういったことには殆ど縁がない。
「恋人同士なら、夜はベッドの上で手をつないでお互いへの愛を語ったり!」
「シャーリーのはちょーっと妄想はいってるけど、俺ももうちっとなにかあっていいとおもうぜ?」
「そうね、流石にそれはないと思うわ」
「……うん」
シャーリー、リヴァル、カレン、ニーナと畳み掛けられてライは戸惑いに首をかしげた。そうはいわれても、生まれてこの方誰かと付き合うなど初めてなのでどうすればいいのかわからない。
俗に言う甘い雰囲気、というのもどうやれば出るのか知らない。一斉に非難を浴びて、唯一無言を貫いているスザクに助けを求めようと視線を移せば、視線が合った途端スザクはいい笑顔で「ルルーシュが押し倒せばいいのにね。へたれなんだから」とか言い放った。
スザクに動きを封じられているルルーシュが、瞬間的に物凄い反抗をするが、ルルーシュなので結局はスザクに取り押さえられたままの現状に変わりはなかった。
助けの手はどこからも伸びてこない。
無常な現実に、ライが成す術をなくしていると当事者のライとルルーシュを跳ね除けて、他のメンバーががやがやと語りだした。
「ライとルルーシュは甘え方が下手というか、甘え方を知らないのよ!だから、甘い雰囲気をつくる方法を考えましょう!」
「甘い雰囲気を出すなら、部屋の電気を消して月明かりと星明り!」
「雲で隠れてたらどうするんだよー」
「蝋燭の火、かしら?」
「それいいね!カレン!!」
「二人ともふりーよ!」
「そういうリヴァルはなにかあるわけ?」
「えー?俺は……裸エプロン、とか?」
「リヴァル……」
「おわっ、引くなよカレン!冗談だって!離れるなっ、本気で傷つくから!!シャーリーもこっそり距離とってんじゃねぇよ!」
「……やっぱり王道は、おかえりなさい、ご飯にする?お風呂にする?それとも……だと思うの」
「ニーナ、やるわね……!」
「わかってくれる?ミレイちゃん……!」
「ちょ、みんなストップ!!」
語りだしたら止まらない、ノンストップ、ついでに羞恥心と良心も投げ捨てたような会話にライのほうが悲鳴を上げた。普段は白い頬を真っ赤に染めて、わたわたと手を振りながら静止をかける。
「おち、落ち着いて!落ち着いてみんな!!」
「そうだよ、ライが困ってるじゃないか」
ライの言葉を支持するように、スザクが相変わらずルルーシュを押さえつけたままだが言葉を添えてくれた。他のメンバーも、スザクの声に反応してか黙り込む。
思わぬところからの救いの手にライがぱぁと、顔を輝かせたのは一瞬。
いい笑顔をたたえたまま、スザクはとんでもないことを言ってのけた。
「そこは着物を着たライの着物の帯をルルーシュが思いっきり引っ張って、あーれーだよ?」
「「?!」」
驚愕のあまり声にならない悲鳴を上げたのは、ライとルルーシュだ。ライが、何を馬鹿なことを言うんだ!冗談もほどほどにしてくれっ!とスザクを非難しようと口を開いたタイミングで、全員の視線がぐる
り!とライを向いて、瞳がきらり、と輝いた。特に女性人の。
「っ?!!!!!!!」
生徒会室に、ライの絶叫が響き渡ったのはいうまでもない。
みんが必死に考えてくれるのは嬉しいけど、どれもこれも甘え方を知らない僕らにとっては難易度が高すぎる!
この後きっと、ライは女性物の着物を着せられ、同じく着物を着せられた(こちらは男性用)ルルーシュと一緒に部屋に放り込まれるのだと(笑)
2009/11/28