考えつきません(気まぐれに10のお題)
「だぁー!つまんなーいっ!!」
それぞれが真面目に文化祭に向けた生徒会の業務を片付けていた中、突然立ち上がったミレイが大声でそう叫んだ。
「会長?」
「どうしたんですか?」
不思議そうに首をかしげてミレイを見たのは、シャーリーとライだけだ。カレンはミレイを一瞥しただけで、手元の書類に視線を戻してしまったし、ニーナとリヴァルはまたか、と肩をすくめている。
ちなみに、ルルーシュとスザクは二人で文化祭のための備品の買出しに向かった。最初はルルーシュ一人で行く予定だったが、買うものの量が量なので体力馬鹿と名高いスザクを連れ出したのだ。スザク一人でいくのは、彼がイレブンだから、という理由で却下。避けて通れる面倒ごとは避けて徹に限る、というのがルルーシュの言い分だった。
そんなわけで、二人ほどかけた生徒会メンバーをぐるりとミレイは見回して、唐突にライにびし!と人差し指を突きつけた。
「ライ!貴方、潤いが足りないと思わないっ?!」
「え?」
「こう、面白おかしい成分というかっ、そう!お祭りよ!!お祭りが足りないのよ!!」
「でも、文化祭準備ってお祭りの準備じゃ……」
「ガーツッ!そうじゃないわ!生徒会恒例の、お祭り成分よ!!」
「生徒会恒例……?」
首を傾げるライにふふふ、とミレイは怪しく微笑むと、ライに突きつけていた人差し指を拳に変えて振り上げた。
「第二回、男女逆転祭り開催よ−――っっ!!!」
と、大きく宣言したのはいいものの、最大の難関はやはりどうやってルルーシュを参加させるか、になる。前回こそナナリーのお願い、というルルーシュのウィークポイントをついて陥落させることが出来たが、同じ手は二度通用するか分からない(ルルーシュのことだから通用しそうな気もするが)それよりなにより「それじゃ面白くないわ!」というミレイの一言でその案は他にいい案が出なかったときの、最後の砦となった。
そして今、ミレイはルルーシュをいかに協力的に男女逆転祭りに参加させるか、という難問の議題の答えをライに迫っていた。
「ほら、こういうときこそ、無駄にいい頭の使いどころよ!」
「えええ?!僕はそんなに頭よくないですよ」
「謙遜しないの!貴方がチェスでルルーシュに拮抗してたこと、忘れたとは言わせないわ!」
確かにチェスは頭を使う遊びだが、それが果たして今回の難題の回答を求められる理由になるのだろうか。
奥でうんうん、と頭を縦に振っているリヴァルと自信満々のミレイにそう問い詰めてやりたい気持ちを抑えつつ、ため息混じりにライは首をかしげた。
「というか、そもそも男女逆転祭り、ってなんですか?」
「名前のとおりよ!」
「?」
「男の子が女の子の格好をして、女の子が男の子の格好をするの」
ミレイの言葉にますます首をかしげたライにシャーリーが小声で説明してくれた。ああ、なるほど、と頷いて、その祭りにルルーシュを参加させるのは、確かにそうとう骨が折れるだろうな、と思う。
明らかにルルーシュは嫌がるだろうし、全力で拒否するだろう。みんなの話を聞く限り、スザクとリヴァルはのりのりだったようだが。
ライ自身できれば遠慮したいなぁ、という思いを抱えつつも明らかにわくわくしているミレイを前に口に出すことは出来なかった。口出しこそしないもののカレンやニーナも、その気らしい雰囲気だ。ということは、この場の全員が乗り気ということになる。
(ごめん、ルルーシュ)
このメンバー全員を説得するのは僕には無理だ。
ひっそり心の中でルルーシュに謝りつつ、ライはいくつか案を考えた。
「普通に拝み倒してみるとか?」
「やったわ」
即答。
「……いきおいで流す」
「ルル意外と流されやすいからねー。いつも結果的には流されるよね」
シャーリーの言葉に、なら今回もそれで、と言おうとしたら、即座にリヴァルが「でもあいつ男女逆転祭りに関しては全身全霊で拒否るから無理だなー」と口を挟んできた。
「………縛り付けて、無理に着替えさせる」
「猫祭りのときにやったわね」
今度は今まで口を開かなかったカレンがしみじみとした口調で言ってきた。やったのか、無理やり。ますますルルーシュへの同情を募らせるライにミレイが「あくまでも自主的にルルーシュを参加させたいのよ!」とさらなる注文を付け加えた。ただでさえエベレスト並みに高い難題が、さらに難易度を上げた。
「ルルーシュが自発的に参加してもいい、そう思うくらいのご褒美を用意する、とか」
それがなんなのか、と聞かれたらライだって即答はできないのだけれど。
ルルーシュに有効そうなものといえば、ナナリー関連だが、あの兄妹は本当に仲がいいので、今更ナナリーからなにかをする、というのはあまりご褒美にならないだろう。
かといって、ルルーシュは物欲も薄いほうだし、そもそも欲しいものは自力で手に入れるタイプなので、他のものが思いつかない。
うーん、と悩みだしたライの前で、ミレイはにやり、と降格を吊り上げた。その表情は、獲物を見つけた肉食動物のようだった、というのは絶賛片思い中の大好きな先輩のあくどい表情をばっちり目撃してしまったリヴァルの涙ながらの後日談だ。
「その案もらった!」
「え?でも肝心のご褒美は?」
「ふふふん、それはこのミレイさんにお任せあれ!」
不敵に微笑むミレイを前に、なぜかライの背中をつめたいものが滑り落ちる。ひやり、と本能の危機感をくすぐる感触は、決して間違いではなかった。
「ルルーシュへのご褒美!それは、女装したライとの一日デート券よ!!」
「ええええ?!!!」
これぞ難攻不落の城を落とす唯一の手立て!
そんな雰囲気満載で、自信満々に言い切ったミレイに絶叫したのはライだった。冗談ですよね?!喉元まででかかったのその言葉は、ミレイの笑みの前に『本気』の二文字を突きつけられてすごすごと引っ込んだ。けれど、それだけで黙っていられるほどことは軽くない。
「ちょっとまってくださいミレイさん!それのどこがご褒美なんですかっ?!明らかに罰ゲームですよね!!」
女装した男と一日デート。
ルルーシュとライは友人なのだから、女装さえしていなければ二人で出かける分にはなんら問題ないだろう。だが、ライが女装となればルルーシュは嫌がるに違いない。というか嫌がるはずだ。女装した男を見て何が楽しい。目の毒だ。決して喜ばないだろう。
ご褒美どころか最悪の罰ゲーム。
そう思ったのは、生徒会室内でライ一人だけだった。
「いやいや、きっと多分絶対ルルーシュなら釣れるぜ?」
「いいなぁ、ルル羨ましい」
「私もいけると思うわ」
「大丈夫……」
「ちょ、みんなっ?!」
上から順にリヴァル、シャーリー、カレン、ニーナと言い募られて、ライの顔色も悪くなる。
ちょっとまて、みんなルルーシュをどう思ってるんだ。それともルルーシュは僕が知らないだけでそういう趣味の持ち主なのか?!
混乱する頭でなんとか状況を整理しようと奮闘していたライに、とどめの爆撃が落とされた。
「それが嫌だったら、他にルルーシュが飛び上がって喜びそうなご褒美を考えるのよ!できなかったら、女子生徒の制服で教室に行ってルルーシュに「好きです」って告白よ!!」
「難易度上がってませんか?!」
「それで晴れて恋人同士になったら、女装のままデート突入ねっ」
ぱちん、とウィンクを投げられて、ライはふらっとよろめいた。
考えつきません、といえる雰囲気では到底ない。
(ルルーシュ、君が死ぬほど欲しいものってなに?)
(なんだ突然)
(お願いだから答えてルルーシュ!僕と君の一生がかかってる!!)
ライくんと生徒会メンバー。
男女逆転祭り第二段は結構真面目に考えたけど、ゲームで十分楽しんだのでお腹一杯過ぎて思いつかなかった。
2009/11/25