それは狂愛の一歩手前
一目見たときに、心を奪われた
きらきらと光を反射して輝く銀色の髪
澄み渡った瞳は海のような空のようなブルーサファイア
病的なまでに白い肌に、蒼い瞳はとても印象的だった。大きな蒼い瞳が優しく細められて、小さく赤い唇が弧を描き、にこりと笑う。癖なのか、笑ったときに少しだけ首をかしげるから、纏められていない長い銀色の髪の毛がさらりと動く。
こんなにも綺麗な人が、この世界に存在するのかと驚くほどに彼女は整った容姿をしていた。後で聞いたところによれば、彼女は学園内で「幻の美形」と呼ばれているらしい。それもあっさりと納得できるほど、彼女はとても綺麗だった。
けれど、そんな彼女には想い人がいた。
それも、両想い。
当然といえば、当然なのだろう。彼女は人間とは思えないほど美しくて、性格だって良い。自分の容姿をひけらかして、他者を見下すようなことは決してない。むしろ、すごく人当たりが良かった。それも建前とか、猫を被ってるわけじゃなくて、自然な優しさを彼女は持っている。
そんな彼女に、彼氏がいない方がおかしいのだ。彼女に思いを寄せられて、断れる男などいるはずがないのだから。
それでも、それでも。
相手の男の方が、私より劣っていたならば。私が僅かでも優劣感を抱ける相手ならば。
私にも少しは望みがあったかもしれない。
けれど、実際に現実は残酷だった。
「ルルーシュ先輩〜♪」
前方に知った人を見つけて、走り出す。助走の付いたまま、がばっ、と自分より低い、それでも平均身長は余裕である体躯に抱きついた。少々細すぎるけれど、彼が運動を苦手とするならば納得もいく。変わりに彼は、ずば抜けて頭が良いらしいから釣り合いは取れているのだろう。
「ジノ様」
少しよろけて、それでもなんとか踏ん張って私の体重を受け止めたルルーシュ先輩は、苦笑しながら振り向いた。瞳には僅かに私を非難する色があったけれど、気づかなかった振りをして、肩に腕を回す。
スザクあたりなら「うっとうしい」とか「なれなれしい」といって、すげなく払われる腕も、相手がルルーシュ先輩なら払われることはない。
理由は簡単。私がラウンズのセブンで彼がごく普通の学生だからだ。同じ学園に通っていようと、私と彼の立場の差は歴然。
彼が口に出して私を責めることは決してない。
「様付けはよせっていっただろー。ジノでいいって!」
「しかし、ラウンズ様相手に……」
逡巡してみせる彼の本音はどこにあるのだろう。スザクから、一筋縄でいく相手ではない、注意しろ、そんな感じのことを言われていたけれど、私が見る限り彼は普通より少し頭が良いだけの弟想いの学生だ。……付け加えるならば、とても、彼女想いでもある。
一瞬だけ心の中によぎったもやもやに見てみぬ振りをする。気づいたら、何かが壊れる。そんな予感があったから。
「でもさー、スザクのことは呼び捨てだろ?」
「それはスザクが幼馴染だからですよ」
「えー!でもスザクが呼び捨てなら俺もいーじゃん!学園でまで、堅苦しく呼ばれたくないっ」
「考慮しておきますよ」
「うっわ、変える気ないだろ、ルルーシュ先輩!」
微笑を浮かべて、さり気ない動作で自分の肩から私の手を外したルルーシュ先輩は軽く肩をすくめてまた歩き出した。方向的に向かうのは、生徒会室だろう。
「私も一緒に行っていいか?」
「ええ。もちろんです」
すぐに追いついて、身体を折り曲げルルーシュ先輩の顔を覗き込みながら問いかければ、すぐに肯定の返事が返ってきた。
思わず顔がほころぶ。別に彼に肯定をもらえなければ、生徒会室にいけないわけではないが(なにしろ先日から私もアーニャも生徒会メンバーだ)彼と一緒に行くということは、高確率でライ先輩に会えるということだ。
ライ先輩は本を借りに図書室に行く以外、いつも生徒会室にいるから、ルルーシュ先輩がいなくたって生徒会室に行けば会うことは出来る。でも、ライ先輩の笑顔はルルーシュ先輩がいたほうが多いのだ。
なぜなら、彼−ルルーシュ先輩−はライ先輩の彼氏だから。
二人は本当に仲がよくて、あまりに仲が良すぎて、冷やかしたりからかったりできないほどだ。別に私がそういうことをしようとしたわけではなくて、二人の級友であり私の先輩であるミレイ会長とリヴァル先輩が嘆いていたのを聞いただけだけれど。
私から見ても、二人はおしどり夫婦のように見えることがある。生徒会雑務の書類整理の正確さにおいて、ライ先輩の右に出るものはいない。右に出るものはいないが、ライ先輩が担当しているのは会長や副会長がする書類をよりしやすく纏めたり優先順位をつけたり、足りない部分を細くしたり、といったこまごまとした作業だ。ライ先輩が目を通した時点で、ある程度、不要なものは取り除かれる。書類不備に関しては、生徒会でカバーできる範囲のものは書き直して他は書き直させて再提出だ。
そんな風にライ先輩が選別し整えたものをルルーシュ先輩が受け取って、最終的な判断を下す。だから、書類整理においてライ先輩の右に出るものはいないが、そのライ先輩の作業は全てルルーシュ先輩のためなのだから、最終的にはルルーシュ先輩のほうがライ先輩より上だということだろう。そしてルルーシュ先輩はライ先輩の上をいく速度で色々なことを片付けていく。忙しい中でも二人は笑顔で、書類の受け渡しのときなどにはそれはもう幸せそうに笑っているから、本当におしどり夫婦だ。
アッシュフォード学園の生徒会というものは、実質この二人で成り立っているようなものだ。
ミレイ会長は、副会長のルルーシュ先輩に一任しているし、ライ先輩がすごすぎて、他のメンバーは手伝うことが殆どない。
一度興味本位で、二人がいなかったらどうなるんだろう?とスザクに訊ねたところ、スザクは肩をすくめて「今みたいに円滑な生徒会活動なんてできないよ」と言っていた。他のメンバーがいくらがんばっても、二人の十分の一も終わらせることは出来ないのだ、とも言っていた。
それでも、他のメンバーが生徒会活動に意欲を失わないのは、通常の雑務は二人で十分でも、文化祭や体育祭、そういった大型行事になると人の手がいくらあっても足りなくなるのと、ミレイ会長が提案するおもしろおかしい祭りは、総じてルルーシュ先輩が否を唱えるので、それを説得したり時には実力行使によって黙らせるためらしい。
普通の生徒会、というものはよくしらないが、まぁ、この学園の生徒会が普通の枠から大きく外れているのだろうということは庶民の暮らしをよく知らない私でもわかる。
「ルルーシュ!やっと見つけたっ!」
「リヴァル?どうした、そんなに走って」
ぜぃぜぃと息を切らせながら走ってきたリヴァル先輩にルルーシュ先輩が怪訝そうに眉根を寄せる。私もなにかあったのかと興味津々で身を乗り出した。
「どうした、じゃないぜ!ルルーシュお前、今日提出の課題まだだしてないだろ?担当の先生が、今日中に出さなかったらランペルージは留年だ!ってすっげー怒ってたぞ!!」
「……そういえば、そんなものもあったな」
「あーもー!お前のことだから、五分ありゃあ終わんだろ!一回教室戻って、書き上げて、さっさと提出して来いよ!!」
「そうだな。そのプリントも多分教室に置きっぱなしだし……申し訳ありませんが、ジノ様は先に行っててもらえますか?」
「りょーかい」
申し訳なさそうな表情で私に言うルルーシュ先輩に、笑顔で頷く。がんばれよ、と一言添えるのも忘れずに。
がんばるほどのことでもないさ、とさすがとも言える言葉を残して背を翻したルルーシュ先輩にひらひらと手を振って、リヴァル先輩を見る。
「リヴァル先輩はこれから生徒会室か?」
「あー……、実は俺も、明日提出の課題が終わってなくて、さ」
気まずそうに視線を逸らして、頭をかきつついうリヴァル先輩。それは課題が終わっていないから、というだけの理由ではなさそうだ。
どうしたのかと問いかければ、もごもごと口を動かした後リヴァル先輩は白状した。
「俺一人じゃどうしてもわかんなくって、ライかルルーシュに教えてもらおうと思ってたんだけどさぁ、ライに聞くとルルーシュがこえーし、かといってルルーシュのほうも教えてくれるかどうか」
「なんでだ?」
「ほら、いまの課題の提出で多分十分くらいかかるだろ?その分生徒会室に行くのが遅れて、ライと会える時間が減ったのに、さらに俺の面倒とかみてくれねーよ……」
「ああ」
がっくりと肩を落としたリヴァル先輩は、そこまで分かっていながらもルルーシュ先輩に教えたのだから偉いと思う。わしゃわしゃと頭を撫でれば「やめろよ、一応先輩だぞ!」と抵抗されてしまった。
素直に手を引いて、乱れた髪を直しているリヴァル先輩は、ため息を一つ吐き出した後視線を遠くに向けた。方角的に、図書室の方だろう。
「しゃーねー。もうちょっと一人でがんばるとするかなぁ。てなわけで、俺図書室に行くから。伝言よろしく」
「わかった〜」
ルルーシュ先輩と違って、てってけ走り出したリヴァル先輩の背を見送り私はようやく生徒会室へと足を向けた。
どきどきと、少しだけ心拍数の高い胸を押さえて。
「こんにちはー!」
生徒会室の扉を開いて、ひょっこりと上半身を除かせれば予想に反して、生徒会室の中にはライ先輩一人しかいなかった。
きょろきょろと見回してみても、他のメンバーはいない。どうしたのだろうと首を傾げれば、ライ先輩が説明をしてくれた。
「会長は家の用事、シャーリーは部活、スザクとアーニャ様は政庁に戻ったよ」
「ライ先輩一人?」
「そうだね。でも、ジノ様がきたから、二人、かな?」
悪戯っぽく笑う笑顔につられて私も笑い返す。生徒会室に入って、ライ先輩の正面の椅子に座り込んだ。自分の席ではないが、気にすることはないだろう。常に書類整理をしているライ先輩とルルーシュ先輩以外の席は、特に決められていないからだ。
ついでにいえば、ルルーシュ先輩の席はライ先輩の席の右隣だ。書類が渡しやすいように、ということらしい。
また胸に生まれたもやもやとしたものを、綺麗に隠して私はライ先輩に話しかけた。
「ライ先輩はいつからいたんだ?私は授業が終わってすぐに来たし、ルルーシュ先輩も廊下にいたぞ?」
「僕は帰りのHRに出席してないから」
「サボり?」
「うん、そういうことになるね」
内緒だよ、そういって淡く笑った彼女に、心臓が跳ねる。どきどきと、うるさく高鳴って止まらない。
ライ先輩はルルーシュ先輩とは違って、私に敬語を使わない。使わないように、私が頼み込んだ。少し困ったような顔をして、二人きりのときなら、という条件付で許してもらった。呼び捨ては、流石にダメだったけれど。
収まらない胸の鼓動に思わず胸に手を当てると、ライ先輩が急に眉を寄せた。そして、白魚のように白い掌を伸ばして、私の額に当てた。
「ライ先輩?!」
「熱はないみたいだ。ごめん、少しきつそうに見えたから」
「いや、ありがとう。うれしい」
一気に頬に熱が集まる。かぁぁ、と赤くなった顔をライ先輩に気取られたくなくて、ふいっと顔を逸らした。
ライ先輩はとくに私の動きを追求することなく、書類に視線を戻しながら私に尋ねてきた。
「さっき、ルルーシュに廊下であったっていってたけど、ルルーシュは今日はこないって?」
「課題が終わってなくて、片付けたらくるってさ」
「そっか。ルルーシュのことだから、また留年だぞ!とか脅されてるんだろうな」
くすくすと笑うライ先輩の言葉は的確で、あの場にいなかったのにどうしてそんなことがわかるのだと問い詰めたくなる。
彼女だから、といってしまえばそれまでなのだが、私はその理由に納得したくなかった。
「ライ先輩は」
「うん?」
「ルルーシュ先輩が、好きなんですね」
口にするのに、すごく勇気が必要だった。心の中をいろんな感情がぐるぐると渦を巻いて、台風のように荒れ狂っている。なんとかそれを押し込めての私の台詞に、ライ先輩は、ふわりと、花のほころぶように笑った。
「好きだよ」
幸せがにじみ出ている言葉だった。ぎゅうぎゅうに、幸福というものを詰め込んだかのような声音だった。
それは、たった一言。たった一言、だったけれど。私の中で、それまでこらえていた感情が爆発するには十分すぎた。
ライ先輩は、傍目から見て分かるほどルルーシュ先輩のことが好きだ。
ルルーシュ先輩も、他の人とは比べ物にならないほどライ先輩のことを大切にしている。
第三者が、介入する余地はそこにはない。
もし、もしも、ルルーシュ先輩が私より劣っていたら。私が僅かでも優劣感を感じられるような人だったら。
あるいは私には、勝機があったかもしれない。略奪愛だって、できたかもしれない。
けれど、現実は残酷で。
私がルルーシュ先輩に劣っているとは決して思わない。けれど、同じくらい自分が勝っているとも思えなかった。
ルルーシュ先輩は体力はゼロだし、運動神経もいいとはいえない。けれど、とにかく頭が良かった。それは、話していれば分かる。ちょっとした話のなかでも、彼の頭の回転速度の異常さはわかってしまう。
そしてなにより。
ルルーシュ先輩は、ライ先輩を愛していた。
きっと、私のこの胸が張り裂けんばかりの想いのそれよりも巨大な愛をルルーシュ先輩は抱えている。
恐らく、二人の間には私など入る隙もないほどの何かがあって、だからこそ二人の絆は固すぎるほどに固いのだ。
勝ち目はないと、介入の余地などないと、横恋慕など、するだけ不躾だと、初めて二人が並んだときに思い知った。
それでも想いは止められなくて、溢れる感情は静止が聞かなかった。
それでも今日まで、耐えてきた。絶えて、きたのに。私からの不用意な一言。会話の流れで、ライ先輩がそう答えるのは当然だったのに。それなのに。
ライ先輩の一言で、私の理性のタガは外れてしまった。
急に暗くなった視界に、ライ先輩が不思議そうに顔を上げる。いつの間にか隣に立っていた私に気づいて、ライ先輩は可愛らしく小首を傾げた。
「どうしたんだ?」
うつむいたままの私に、たちあがって気遣わしげに声をかける。けれど、その言葉に反応せずに、私はたった一言だけ、囁いた。
「……ごめん」
「?……っ!?」
突然の謝罪に、さらに不思議そうな顔をするライ先輩。その瞳は、すぐに驚きに見開かれた。澄んだ蒼い瞳の中に、私の顔が映る。ライ先輩の驚愕の声は、私の口内に消えていった。
「んぅ……!」
唇同士を触れさせて、その柔らかな感触に酔う。けれど、それだけでは満足できなくて。私の舌はライ先輩の唇を撫でた。小さく、ライ先輩の肩が揺れる。
そのまま机の上に押し倒せば、はらはらと書類が何枚か落ちたが、そんなの知ったことではない。
抵抗するように伸ばされた二本の腕が、私の胸板を押す。邪魔な手に苛立って、するりとライ先輩の胸元から女子制服用のネクタイを引き抜くと、抵抗するライ先輩の両手を頭の上で縛り自由を奪った。片手でそのまま縛った腕を押さえる。
執拗に唇を撫でる私の舌にライ先輩がいやいやと頭を振る。そのことと、中々唇を開かないライ先輩に私はしびれを切らして、ライ先輩の足を強引に開かせて間に自分の身体を滑り込ませた。ライ先輩の瞳に、恐怖の色が移る。
それすら、今の私には心地よくて、あいていた片手でライ先輩の白い太ももを撫であげた。すべらかな肌と程よい弾力が伝わって、気持ちがいい。さらに内側に手を伸ばすと、ライ先輩が涙目で声を上げた。
「やめ……!」
声を発するために口を開いた、その隙を見逃さず、私はするりと舌を口内に忍ばせる。目を見開いたライ先輩の眦から、一滴涙がこぼれる。それは、生理的なものなのか、ショックによるものなのか。私には判断が付かない。つけようとも、思わなかった。今の私はただただ、ライ先輩におぼれていたかったから。
歯列をなぞり、逃げようと奥に引っ込む舌を無理に絡める。私からライ先輩につたる唾液は飲み込みきれず、ライ先輩の口の端から零れ落ちた。扇情的な姿だ。
「んぅ……っ」
息が苦しいのか、喘ぐように漏れる声もたまらない。執拗に舌を絡ませる私の行動に、ライ先輩の抵抗も少しずつ弱まってきた。諦めた、というよりも力が入らなくなってきたのだろう。いつの間にか、ライ先輩の綺麗な瞳は閉じられていて、蒼い目は瞼の裏に隠れてしまった。
残念だ、そう思って太ももに伸ばしていた手をさらに奥へと侵入させようとしたとき、しゅん、と扉の開く音がした。
そして、ばたん、と、なにか物が落ちる音が響いた。
それがなんなのか、理解する前に私は襟首を掴まれてライ先輩から引き剥がされ、ついで頬に熱い衝撃が走った。
拳で殴られたのだ、と理解したのは身体がよろけた後だった。
「貴様……殺してやる!」
目の前には、魔王のような形相をしているルルーシュ先輩。ああそうだ、彼はライ先輩の彼氏なのだから、この状況を見れば逆上するのも当然だろう。なぜか酷くさめた思考で、そんなことを考える。
「る、るー……しゅ」
眼光で人が殺せるなら、私は百回以上死んでいただろう。そんな眼光がそれたのは、横で聞こえた小さな声によってだった。
私が机に押し倒していたライ先輩が、立ち上がる気力もないのか押し倒されていたときそのままの状態で、ルルーシュ先輩の名前をか細く呼ぶ。
すぐに振り返ったルルーシュ先輩がかけよって、まずライ先輩の両手を縛っていたネクタイを解く。自分でたとうとして失敗したらしく、ずるずると床にすわり込んだライ先輩を両手で支えてぎゅう、と抱きしめた。
「ライ、ライ……!すまない、俺がもっと早くきていれば……っ」
「だ、じょぶ。……まだ、」
「なにもしてない」
ライ先輩の言葉をさえぎってそう口を出せば、ぎろり、と再びあの眼光が突き刺さる。
それは、ラウンズとして幾多の戦場を渡り歩いていた私ですら怯みそうになるほどの憎悪と殺意に溢れた眼差しだった。
反射的に引きそうになる足をなんとかその場にとどめて、私は口元を拭う。どちらのものとも分からぬ唾液が手の甲を光らせて、それにすごく満足した。
「貴様、何をしたか、わかっているのか!」
非難の声にも、顔色は変えない。むしろ、不適にさえ微笑んで。
「わかってるよ。俺は、ライ先輩……いや、ライを無理やり襲った」
びくり、と私が呼び捨てにしたことにライが肩を震わせた。ルルーシュ先輩がライを抱きしめる腕の力を強くしたのも、わかった。
「貴様……!!」
「でも、後悔はしてない。反省もしない。謝罪は……ライが謝れというなら、謝るけど」
ぬけぬけとそんなことをいう私にますますルルーシュ先輩の眼光が鋭くなる。内心で、それ以上鋭くなるものなのか、と的外れなことを感心していた。
「私は、諦めない」
それだけ言い放って、くるりと背を向け生徒会室を後にした。
貴方が、笑っているならいいと思った。
隣にいるのが私でなくとも、他のだれかでも、貴方が幸せそうに笑うならそれでいいと思っていた。
その心に、嘘はなかった。
けれど、やっぱり、ダメだった。
貴方の隣は私がいい。私以外は認めない。
たとえ貴方が私の心を寄せてくれなくとも、私は、貴方を―――
―――力づくでも、手に入れる
2009/11/19