結局全ては自己満足で、君の名を借りた僕は君のためと偽りながら僕のために生きていく.




さく、さくり。
大地を確りと踏みしめて、僕は少し急な山道を上る。ルルーシュとロロのお墓は、見晴らしのいい丘の上にあって、そこにいくまでに、僕の家からは山道を歩いて三十分はかかる。
本当は、もっと近くに住みたかったのだけれど、あまりに近すぎると二人の眠りを妨げてしまうかと思った。……毎日毎日通っておいて、おかしな話だけれど。
木々が途切れて、視界が開ける。太陽の下、青空がまぶしくて目を細めた。今日の僕は、花束を持っていない。この十年、ルルーシュとロロの元へ行くときは決して欠かさなかった花束を、今日は持ってこなかった。
かわりに、もってきたのは。

ルルーシュから貰った、アメジストのピアス。

「ルルーシュ、ロロ、おはよう」

名前のないお墓の前にたって、にっこりと笑う。大事に握り締めていたピアスの箱を、もう一度持ち直して、僕は胸に抱いた。

「ルルーシュ、C.C.から、もらったよ」

黒と紫と紅の三色で構成されたピアス。黒は、ルルーシュの髪の色、紫はルルーシュの瞳の色、紅は、きっとギアスの象徴。

「ルルーシュがね、してたピアスと二つで一つだね」

ルルーシュが、していたピアス。今思えば、プラチナは僕の髪の色、ブルーサファイアの青は僕の瞳の色、ダイアモンドの透明は聴覚を媒介にした僕のギアスのことなのだろう。

「このピアス、僕はつけるよ」

かがみこんで、そっと手を伸ばす。触れるのはルルーシュのお墓。名前のない墓石を愛しく撫でて、僕は微笑んだ。

「君はきっと、君と僕の関係がばれる可能性があるから、つけるなと、いうのだろうけれど」

一度墓石から手を離して、ピアスの入った小箱をルルーシュのお墓の前に置く。そして、小箱ごと包み込むようにルルーシュの墓石を抱きしめた。

「そんなこと、知ったことか」

ばれるなら、ばれればいい。僕にとってルルーシュとの関係は、暴かれて困るものではない。
僕はルルーシュのもので、ルルーシュは僕のものだ。このピアスがそれを証明してくれるのならば、僕は一度身につければ決してはずすことはしない。
ルルーシュとの関係が明らかになれば、多かれ少なかれ僕にとって不利だろう。生きづらくなるに違いない。けれど、それでも。

「僕は、君のことが、好きだから」

ルルーシュのように『愛してる』とは言えない。気持ちは同じだけれど、僕にとってルルーシュは『好き』という存在だ。二つの言葉の違いは些細なもので、でも僕にとっては決定的に違う。
それでも、もし、ルルーシュが僕に『愛してる』といってほしいといったなら、僕はためらいつつも口にしただろう。けれど、ルルーシュは一度だってそんなことをいわなかった。僕に望まなかったから、僕はあえて『好き』という言葉を貫こう。

「ルルーシュ、僕は、僕の為に、君の為に生きるよ」

ルルーシュのため、それはとても傲慢な台詞だ。
結局は自己満足でしかないのだから、それはすでにルルーシュのためではなく僕自身のためなのだから。
それでも、僕にはルルーシュのためという免罪符が必要で、それがなければ、僕は生きていくことが出来ない。ルルーシュのいない世界では、息が出来ない。
だから、ごめん。
僕の我侭のために、君の名前を、借りていくよ。

「ルルーシュ、僕は」

君のいない世界に、価値を見出せない

「それでも、君は」

この世界を愛したから、この世界に生きる人々を、愛していたから

「僕は、君のように立派にはなれないけど」

大切な一部の人間のためだと言い張るだろうけど、結果的に君は世界の為に命を捧げた君のようにはなれない。それでも、僕は

「生きて、いくよ」

君の望んだ“優しい世界”を作るために







2009/11/14